物販ビジネスにおいて避けて通れない「損切りタイミング」についての考察
「物販ビジネス」という在庫を抱えるビジネスでは、「仕入れ」はもちろん、「損切り」は絶対に避けて通れない課題です。
一般的に損切りは在庫処分とか、不良在庫処分と言いますが、このコラムでは正しく意味が伝わるよう「損切り」と表現します。
損切りとは元々株式などの投資用語で、「損失を抱えている状態で売却する事」です。
つまり物販で言う損切りとは「仕入れ値より安く売り、損失を確定させる行為」になります。
在庫処分という言い方だと、トントンで売ったり、決算前の在庫調整などで売るケースなどかなり広い意味で使うことが多く、必ず赤字で売るとも限りません。
一方で損切りは「確実に損失が出る状態で売る」ことを指します。
物販初心者の方は「ちゃんとリサーチして仕入れているのにそんな状況がありえるの?」と思うかもしれません。
ですが、物販において100%黒字になることはなく、遅かれ早かれほぼ必ずこの損切りをしなくてはいけない場面はやってきます。
その時に損切りをちゃんと想定していたか、そしてその時に正しく損切りを行えるかでビジネスが決まると言っても過言ではありません。
今回はこの物販ビジネスで非常に重要な損切りについて、筆者の考察をお伝えします。
この記事の目次
入念にリサーチしても「売れない商品」は必ず出てくる
損切りをすると、当然ながらその商品は赤字で売却する事になり、せっかく他の商品で得た利益が減ってしまいます。
誰もができれば損切りなんてしたくないでしょう。
ですが、物販において「売れない商品」が出てくるのはある意味正常というか当然で、こうした売れない商品は本当に価値が0になる前に売り抜かなくてはいけません。
仕入れ時にはほぼ確実に利益が出る商品だったとしても、市場の変化で突然売れなくなったり、シーズンやブームが過ぎて見向きもされなくなる商品は必ず出てきます。
もちろんこうした商品ばかりになってしまう場合はリサーチや仕入れの仕方に問題がありますが、ある程度であれば物販ビジネスにおいては「当たり前」です。
どんなプロや熟練者でも、またどれだけ入念にデータを調べて慎重に仕入れても一定の不良在庫は必ず出るのです。
そのため、ビジネス全体で赤字になっていない限り、売れなくなった商品が出ること自体は気にしなくても大丈夫です。
重要なのはその「売れない商品をいつ、どうするか」という対処です。
倉庫やデータ上でいつまでも売れ残っている商品を見るのは嫌なものですが、それでも自分の商品です。
これらの売れない商品を仕入れてしまったのは自分ですし、何とかするのも自分しかいません。
ニンテンドースイッチ騒動に見る損切りのタイミング
ニンテンドースイッチのような相場変動の大きな人気商品は、損切りタイミングの考察にあたり、教材として非常に優秀です。
もちろん我々がこうした商品を扱うことはありませんが、これを扱っているのがいわゆる「転売ヤー」です。
一応説明すると、転売ヤーは「品薄の商品を買い占めて定価以上で販売するビジネス」です。
これをビジネスと定義するかどうかは難しい所ですが、筆者としてはこのようなビジネスモデルは推奨しません。
ただ、転売の是非はさておき、変動の大きいこうした商品は損切りタイミングが非常に重要になってくるため、損切りについて考えるとき、我々としても学べる点があります。
ニンテンドースイッチは、常に人気で品薄のためすぐにプレミア価格になり、定価で仕入れることができれば高い確率で定価以上で売れる商品です。
そのため、発売からずっと大量の在庫を保有している転売ヤーも多いと思いますが、そんな転売ヤーに下記のような事態が起こりました。
https://www.j-cast.com/trend/2021/10/01421638.html?p=all
要約すると、ニンテンドースイッチの新しいモデルが発売されるというニュースが出て、旧モデルを抱えていた転売ヤーが慌てて旧モデルを売ろうと焦っている、という記事です。
有機ELを採用した革新的なスイッチの新モデルは定価が37,980円、一方で旧モデルの定価が32,978円です。
たった5,000円上乗せするだけで従来よりも優れた新モデルが手に入るわけです。(有機ELが良いかどうかはさておき)
となればこれからスイッチを買うユーザーは新モデルに殺到するでしょう。
少なくとも旧モデルをプレミア価格で買おう、というユーザーは激減するはずです。
人気商品のため、旧モデルでも定価かその近くの価格では売れるかもしれませんが、販売手数料等を考えたら定価で売った場合100%赤字です。
こうした現象はスイッチに限った事ではありません。
新しいモデルの発売や、限定品であれば再販といったように、ニュース一つで相場が大きく下落することはよくある事です。
転売ヤーとしては、新モデルが市場に供給されて旧モデルの価格が暴落しないうちに、損失が小さいうちに早めに旧モデルを売らなくてはいけません。
つまり「損切り」しなくてはいけないのです。
値下げ合戦が始まってから損切りしたのでは遅すぎる
新モデルが発売、もしくは発売されるというニュースだけでも市場に出回り始めれば、旧モデルの価格は一気に下落します。
しかも場合によっては価格の下落に歯止めがかからず、相場はどこまでも落ちていく可能性があります。(スイッチ本体などの場合は、下げ止まりはありそうですが)
価値が下がり始めた状況に焦りを感じた他の転売ヤーはさらに焦り、早めに売りぬいて1円でも損失を抑えようと、他の転売ヤーよりも価格を下げて投げ売りをするでしょう。
それを見た他の転売ヤーがさらに焦り、さらに価格を下げて…と、物販でもおなじみの値下げ合戦、負のスパイラルが始まります。
ですが、そもそもこの値下げ合戦が始まってから損切りを決定したのでは遅すぎます。
一度値下げ合戦が始まってしまえば、どこまで値が下がるか予測も見当もつかず、損失がどこまで膨らむのかもわかりません。
損切りは赤字を確定させる作業ですが、何も考えずに赤字で売る行為は損切りではありません。
赤字確定とはいっても、「損失の額そのもの」は自分で把握・コントロールしなくてはいけないのです。
つまり「損切りによって全体の利益の10%を失う」と分かっていれば問題ありませんが、「いま損切りを始めたらかなり損失が出そう」は絶対NGです。
「いま損切りを始めたらかなり損失が出そう」というタイミングや考えで損切りをすると、状況次第で他の商品の利益をすべて食いつぶす事態になるかもしれません。
周りの状況を見て、周りがやっているから自分もさっさと投げ売りをしよう…は間違った損切りです。
損切りはあくまでも戦略的、計画的に行わなければいけません。
周りが投げ売りを始めてから、損失をコントロールできなくなってから行う損切りは損切りではなく単なる事業失敗です。
物販においては「見切り千両、損切り万両」と心得る
「見切り千両、損切り万両」とは、相場の格言の一つです。
株式の世界では、買った株が値下がりし始め収益の見込みが無くなった時に見切りをつけることで千両(現在の価値で1億円以上)の価値があるとされています。
さらにその株が含み損(売ると損失が出る状態)だとしても、自分の考えや意思を持って売却して損切りを行うことには万両(今の価値で10億円以上)の価値があるとされています。
正しい損切りには非常に高い価値がある、という格言ですが、逆を言えば格言になるほど実行に移すのが難しい決断でもあります。
ちょっと株式や物販をかじったことがあれば損切りが正しい、やるべきだと分かっているはずです。
ですが、損切りは心理的なハードルが非常に高く、実行に移すのは簡単ではありません。
株式にしても物販にしても、自分が考えに考え抜き、苦労して買った物をマイナスで手放すのは非常に辛い決断です。
自分で自分にとどめを刺すようなものです。
株や商品は相場物ですから、「ひょっとしたらこれから売れるかもしれない」「もう少ししたら相場が元に戻るかもしれない」と思うのは当然の心理です。
これは初心者に限らず、長年やっている私でもいまだに思いますし、世界一の株式のプロだってそうだと思います。
つまり世の中のほとんどの人が、自分の保有している値下がり株や不良在庫商品に対して淡い期待を持っているのです。
ですが、そうそう期待通りに行くことはなく、大体が放置した結果損失を拡大させ、どうしようもない状態になってから「やむなく損失を確定する」結果で終わります。
先ほどお伝えした通り、これは損切りではありません。
こういう方がものすごく多いので、「見切り千両、損切り万両」という格言が生まれたのです。
損切りすべきタイミングになり、その時にどう自分の商品や株に決着をつけられるかで、アマチュアとプロの差が出てきます。
なぜそこまでして損切りが必要なのか?
株式にしても物販にしても、食品でなければ腐ったり壊れたりすることはありません。
「じゃあ売れるまで、価格が戻るまで保有しておけばいいのでは?」と考える方もいます。
これは株式では「塩漬け」と言って、状況にもよりますが基本的に悪手、あまり良くない事とされています。
物販で言えば、売れない商品をいつまでも保有していると経営の生産性を阻害します。
物販は「仕入れ」→「販売」→「利益回収」→「仕入れ」のサイクルを回すことで、利益を大きくしていきます。
このサイクルのどれか一つでも停滞してしまうと、そこでキャッシュフローが滞り、そのまま経営全体が停滞し始めます。
商品は売れてこそ商品であり、売れない商品はその時点では1円の価値もありません。
お金に替わらないということは、次の商品を仕入れる資金にもならず、しかも倉庫のスペースをいつまでも食いつぶす置物です。
もっと言えば、価格が下がり続けている商品は、今この瞬間にも赤字を生み出し続けている貧乏神のようなものです。
こうした不良在庫化した商品は、例え1円でもいいので早めに現金に換え、利益を生んでくれるであろう次の商品の仕入れに回すべきです。
もちろん1円で売るというのは比喩で、実際はそうなる前に、できる限り損失を抑えてベストなタイミングで売りぬくのが「損切り」です。
正しい損切りのために「最低利益の設定」を行っておく
ここまでで、今回解説している「正しい損切り」の難しさを何となく感じてもらえたのではないかと思います。
この正しい損切りですが、実は比較的簡単にタイミングを図って実行に移す方法があります。
それが「最低利益の設定」です。
最低利益の設定とは、「この価格まで値下がりして利益が少なくなってきたら損切りする」というラインの設定です。
商品を仕入れた物販プレイヤーが次に考えるのが「売価」ですが、多くの人が「いくら利益が出るか」という観点でしか考えません。
「この商品は、相場が〇〇円くらいだから、この価格で売れば△△円の利益が出るな…」
おそらくほとんどの人がこう考えて売価を決めているはずです。
ですが、「いくら利益が出るから」というプラス視点だけで考えると、将来的に価格が下がった時に「まだ大丈夫」「まだ利益が出る」と考えてしまいます。
最初に利益のみを考えてしまうと、最後まで淡い期待を捨てきれず、ベストな損切りのタイミングを逃すまでいつまでもダラダラと販売を続けてしまいます。
そして最終的に、先ほどの転売ヤーのように、どうしようもない状況になってから大赤字で損失を確定させられてしまうのです。
こうならないためにも、最初に最低利益を設定しておき、その後設定した最低利益価格になったら、その商品の在庫処分を始めます。
最低利益を設定して、確実に実行することで、市場の流れや在庫数に関係なく自分の意思で処分タイミングを確定できます。
また、自分だけの下落ラインを設定して早めに損切りに入れるので、ライバルたちによる本格的な投げ売り合戦が始まる前、損失の少ないうちに商品を売り抜ける可能性も高くなります。
他にも物流費や手数料の改定など、利益が取れなくなる要因は他にもたくさんありますが、「最低利益」を設定しておけばいずれの要因にも対応できます。
正しい損切りを行うためにも、「利益が〇〇円以下になったらこの商品は処分する」というラインを設定しておき、そのラインまで来たら損切りを実行しましょう。
もちろんこの際に「だけど」とか、「ひょっとしたら」とか、「もしかして」などの例外は禁止です。
その心理的な弱さが「見切り千両、損切り万両」を正しく行えなくなる原因であることを忘れてはいけません。
損切りのコツは「感情を一切捨て、機械的に淡々と実行する事」です。
もちろん売却した後に価格が戻ったりすることもまれにありますが、それはあくまでも「結果論」です。
ビジネス全体のトータルで見れば、「あの時損切りしておいてよかった…」と思うことがほとんどです。
物販では、いつまでも商品や利益に執着しないことが大事
商品やサービスには「プロダクトライフサイクル」という過程があり、このプロダクトライフサイクルを経て、いずれ世の中から姿を消していきます。
1.導入期
2.成長期
3.成熟期
4.飽和期
5.衰退期
つまりどんな商品でも、遅かれ早かれ必ず上記のサイクルで「旬の終わり」が来ます。
中には何年、何十年と売れ続けるプロダクトライフサイクルの長いものもありますが、そのような商品にもいずれ終わりは来るのです。
近年では、中国輸入ビジネスを含めどの市場でも、このプロダクトライフサイクルが短くなっています。
商品やサービスの旬は思った以上に短いと言うことを念頭に置き、「最低利益の設定」とそれに伴う「正しい損切り」は必ずしなくてはいけません。
もちろんビジネスにおいてポジティブマインドは重要です。
売れること、売れ続ける事だけを考えてビジネスを進めるのは間違いではありません。
ですが、どんな商品にもプロダクトライフサイクルはありますし、私たちが行うことに100%もありません。
つまりどんな物事にも必ず「想定外」や「失敗」、そして「終わり」はあるのです。
そんな時に「失敗した時の事、終わりが来た時の事を考えていなかった」というのは、ポジティブでもなんでもなく単なる「無謀」です。
自動車を買ったら、事故に備えて必ず任意保険入りますよね?
「事故を起こすことなんて考えて運転するなんてネガティブすぎる」なんて人はまずいないはずです。
しかも物販における想定外の事態や商品の旬の終わりは、交通事故と違いほぼ100%起こります。
絶対来ると分かっている問題に対して備えておくのはネガティブでも何でもなく、「当たり前」です。
「最低利益の設定」と「確実な損切り」という「自分の中の軸・ルール」を先に設定しておき、想定外の大きな損失の波に巻き込まれないようにしましょう。
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