【販売側のリスクを甘く見てはいけない!事故と責任とお金の話】
先日、こんなニュースを見つけました。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2205/09/news066.html
ニュースを要約すると、アマゾンで購入したバッテリーが発火し、自宅が火事になったとして、男性がAmazonに対して訴訟を起こしたという内容です。
被害額は約1000万円と、大きな火災だった事が窺えます。
当初中国メーカーとの交渉や訴訟の検討を行っていましたが、国外ということもありメーカーとの交渉や訴訟は断念し、Amazonに販売者側としての責任を求めた裁判です。
普段私たちが目にする機会がないだけで、こうした製造物による事故や訴訟は日本のどこかで必ず起きています。
先日このコラムで、PL法について取り上げましたが、今回の内容もそれに絡む内容です。
こうした製造側のリスクをお伝えする内容については、アメリカのAmazonを事例に挙げることが多いのですが、今回はまさに日本国内で起きた内容だけに「明日は我が身」と感じました。
皆さんもこうした「販売者側の責任」が、自分の身近に存在するリスクであることを認識して読み進めてください。
販売側は常に販売した製品に対する責任を求められる
販売した製品で事故が起きる原因や要因は一つではありません。
・製造過程の不良
・使用環境による問題
・誤った使い方による事故
このうち、製造過程の不良に関しては当然製造・販売側に責任があります。
一方で使用環境や誤った使い方による事故のように、製造側や販売側ではどうしようもない要因による事故も起きています。
ただ、事故が起きた以上はどんな理由にせよ販売側の責任も追及される可能性があります。
筆者はこれまでもコラムで「なんでも売っていいわけじゃない」「売れているからといってリスクの高い商品に安易に手を出すべきではない」ということを書いてきました。
健康器具やバイク用品など、問題や事故が起きれば人体や生命に重大な影響を及ぼす商品は取り扱わないように、と伝えています。
例え売れている人気商品であっても、大きなリスクのある商品を扱い、売った製品で事故が起きてしまうと、訴訟や賠償で利益どころか事業や人生そのものが吹き飛ぶ可能性があります。
それがまさに今回のニュースで、もし裁判所が販売側の責任を認めた場合、被害者が申し立てている1000万円の被害額に対し、全額ではないにしても相当額の賠償金を支払わなくてはいけません。
今回はプラットホーム側のAmazonでしたが、ケースによっては輸入販売した我々セラーに対して責任追及の矛先が向く可能性は十分に考えられます。
つまり筆者が言っていた「リスクのある製品を取り扱うリスク」が現実になったと言えます。
昔は訴えたり裁判したりといった知識が広まっていなかったため、泣き寝入りしてしまう被害者の方もいたかもしれません。(良い悪いは別にして)
ですが今はインターネットで簡単に知識を得られます。
もし販売している製品で事故が起きたら、必ず被害者は手順を調べて製造者・販売者に何らかの対応を迫ってくるでしょう。
一度事故が起きると多額のお金がかかる
事故が起きると、製品の返品や返金を迫られたり、事故の大きさによっては訴訟を起こされる可能性もあります。
万が一訴訟を起こされると、裁判所に出向かなくてはいけません。
出廷や訴訟対応でその間は仕事ができませんから、当然その間は機会損失で収入が減ることになります。
さらに機会損失だけでは終わりません。
ほとんどの方は訴訟に対応できるほどの法律知識がないはずなので、裁判で対抗するために弁護士に依頼しなければいけません。
弁護士に依頼すると着手金で数十万円、成功報酬で数十万円と非常に多額のお金がかかります。
もちろん訴訟を起こされる側は、裁判に勝っても負けてもこの弁護士費用が戻ることはありません。
勝ってもお金は戻ってこない上に、もし裁判に負ければ当然賠償という話にもなります。
さらに裁判の結果は勝ち負けだけではなく、お互いが歩み寄って解決する「和解」という解決方法もあります。
和解とは勝ち負けといった白黒ではなく、双方の話し合いで妥協点を見つけて平和的に解決する方法です。
裁判には非常に長い時間がかかるため、お互いの負担を減らすために和解になるケースも多いのですが、和解は簡単に言えば双方痛み分けですので、製造・販売側は相応の賠償をすることになるでしょう。
単純計算ですが、今回のニュースのように被害額が1000万円なら製造・販売側が300~500万円払うといった感じになるのではないでしょうか。
勝っても弁護士費用や対応による機会損失で数十万円以上の損失、和解や敗訴の場合は数百万円からケースによっては数千万円以上の損失になります。
もちろん勝っても負けても費用が掛かるという点では、訴訟を起こす側も同様です。
請求金額全額認められるケースはほとんどありませんし、弁護士費用や時間を考えたら訴訟する側もほぼ間違いなく損失になります。
つまり訴訟は「お互いの弁護士以外、誰も得をしない状況」です。
そのため、できれば全員にとって丸く収まるよう、訴訟になるその前の段階で何かしらの対策を講じるべきです。
PL保険に入っておくべきか?
また冒頭のニュースの話に戻りますが、今回の事故で被害者は当初中国の製造メーカーに対応してもらおうとしましたが、中国メーカー側はまともに取り合ってくれませんでした。
そこで訴訟を起こそうとしましたが、製造メーカーが中国のため、訴訟費用が数百万円に上り訴訟の負担が余りに大きいことから中国製造メーカーへの訴えを断念。
そこで男性は、その商品を販売したプラットホームであるAmazonにも適切な対応を取らなかった責任があるとしてAmazonを訴えました。
日本ではまだ事例が少ないのか、こうした裁判でプラットホーム側が負けたという例をあまり聞きません。
ですが訴訟の本場アメリカでは被害者、つまり消費者側が勝訴する判決が相次いでいます。
製造メーカーやAmazon、そしてAmazonで販売している我々セラーの訴訟リスク、また敗訴のリスクが高まっている状況です。
今回は製造・販売メーカーが中国だったため訴訟を断念してAmazonに切り替わりましたが、これが日本のメーカーや販売者、つまり我々日本人セラーだったら普通にそのまま訴えられていたわけです。
さて、現在Amazonで商品を販売している皆さんはこうした訴訟に対する備えをきちんと行っているでしょうか。
こうした販売に関する、諸々のリスクに備える手段として良く検討されるのがPL保険です。
賛否ありますが、筆者としては中国輸入ビジネスをやっている以上、いつ起きるかわからない事故や訴訟・賠償リスクに備えてこうした保険に加入するのはありだと思います。
自分が扱っている商品の事故リスク、自分の保険に対する考え方次第では加入しても良いでしょう。
ただし、保険に入ったからといってリスクのある商品を売っていいわけではありません。
保険はどんな事故にも対応できる万能商品ではなく、事故の経緯や状況によっては保険金が下りない可能性もあります。
保険があるからと、いい加減な商品の販売や対応をしていて事故が起き、いざ保険を使おうと思ったら保険金が下りなくて事業が破綻した…というケースはあります。
保険はあくまでも万が一、いえ億が一くらいの気持ちで入っておくもので、基本的には「保険を使わなくて済むビジネス」を心がけるべきです。
最後に
皆さんもご存じの通り、中国製品に対して品質面で不安を感じる方は多く、いざ事故が起きると新聞やニュースなどで注意喚起を含めて「中国製品発火!」と大きくクローズアップされてしまうことも多いです。
以前、中国製の安価なモバイルバッテリーで、発火事故が相次いだ時期がありました。
これはその当時PSEマーク取得の義務がなかったことから、粗悪で安全性が低い、安いだけのモバイルバッテリーを売って儲けようとした人が相次いだ結果です。
この事故でやけどしたり、家や持ち物が焼けてしまった人もたくさん出てしまいました。
こうした事故を受けて、現在ではバッテリーに関してはPSEの取得が義務付けられています。
ところが、同じような流れ、同じような問題に発展しそうな製品は今現在もたくさんあります。
例えば健康器具やバイクのプロテクターは人の健康や体に直接影響がある製品にもかかわらず、今現在大きな規制がなくある程度自由に好きな製品を販売できる状況にあります。
規制がかかるまでに売れるだけ売って儲けようとか、事故なんてそうそう起きるはずがない、と思っている方は自分を大きなリスクにさらしていることを再認識しましょう。
筆者に止める権利や権限はありませんが、ビジネスの先達として、こうしたジャンルの製品を扱うことはおすすめしません。
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