自分が売る商品の品質と安全性について考える
本題に入る前にまずはこちらのニュースを見てください。
【アマゾン、欠陥商品による損害に補償金 方針転換へ】
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66459
ざっくりと内容を要約すると、アメリカのAmazonは、マーケットプレイスで販売された商品、つまりセラーが販売した商品が原因で購入者が怪我したり物的損害を負った場合、その賠償金を支払う、という内容のニュースです。
これまでAmazonでは、返金や返品といった形でセラーとユーザーの間で仲介に入っていましたが、今後は商品が原因で起きたケガや物的損失の「補償」についても積極的に対応する、というわけです。
今までのAmazonの姿勢としては「あくまでもマーケットプレイスはセラーに売る場所を提供しているだけ」という一歩引いたスタンスでした。
そのためアメリカのAmazonも日本のAmazonも、トラブルが起きた際は「セラーと購入ユーザーが直接連絡を取り合って解決を目指す」が基本となっていました。
そこで解決しなかった場合に限り、Amazonが入って返金や返品を行う、という流れだったのです。
それが、今後はより積極的にトラブルに介入する姿勢に方向転換しました。
もちろんこの仕組みを悪用して、不正を行うユーザーも出てくるでしょう。
そのため、Amazonは不正感知の仕組みを作り、専門家に入ってもらうなどしながらこの取り組みを進めていくそうです。
賠償額の上限は現時点で最大1000ドル(2022年現時点日本円で約13万円)で、これを超える分については出品者負担となりますが、それにセラーが応じない場合もAmazonが代わりに支払う可能性があるようです。
こうした賠償リスクをAmazonが負う代わ、セラーにも損害賠償保険に加入してもらうといったリスク管理の取り組みも同時に進めるとのこと。
今回のこの取り組みにより、Amazonで商品を買うユーザーはより安全に、安心して商品を購入できるようになるわけです。
今回のニュースはアメリカの話ですが、この流れはほぼ間違いなく日本にも波及するでしょう。
Amazonがこのように方針転換した背景について筆者も色々と推察してみました。
おそらくですが、マーケットプレイスの拡大によるAmazonブランドの保護・リスク管理があるのではないかと思います。
現在Amazon流通額の約6割、半数以上がマーケットプレイス、つまりセラーによる販売です。
セラーによる販売が自社流通額の半数以上を占める状況で、「対応を全てセラー任せ」にしてしまうと、トラブルや問題が頻発する可能性があります。
それを放置すれば当然Amazon自身の信用問題にも関わってきます。
ならばいっそAmazon自身がトラブルや問題に対して積極的に介入して管理し、リスクコントロールする方が良いと判断したのではないでしょうか。
上記はあくまでも筆者の推察ですが、アメリカでは実際に不良品による事故の裁判で、セラーと同時にAmazonの責任を追及する裁判も多数起きています。
冒頭のリンク記事だけでも3件中2件の裁判でAmazonの責任が認められています。
Amazonにとって、「すべてセラー任せ」にするのはデメリットが大きすぎる状況になったわけです。
しかも今回裁判になった商品3つのうち2つが「中国製」で、中国から輸入した商品が発火したり、破損して購入ユーザーがけがをしました。
この点からも、我々中国輸入セラーも無関係ではありません。
Amazonでビジネスを行う我々としては、Amazonの方針については常に意識しておくべきですし、また、世界各国で起こっている中国輸入製品の問題についても把握しておかなくてはいけません。
いち早く状況を把握することで、今後起きるであろう問題に対し事前に対処できるからです。
品質と価格は比例している
話は少し変わりますが、昔の中国製品といえば「安かろう悪かろう」とか、「安物買いの銭失い」なんて言われるような「粗悪品」がたくさんありました。
それがここ十数年で一気に品質やデザイン性が上がり、一昔前の中国製のイメージを払拭する高品質な製品もかなり増えてきました。
今では世界の工場として、「安くて良いもの」を作り出せる下地が整っています。
ただ、その一方でいまだに昔の「安かろう悪かろう」を作っている工場や業者も少なくありません。
こういった業者は、ユーザーのことやアフターサービスなんて1ミリも考えていません。
品質や安全性は完全に二の次で、「とにかく安くしてたくさん売る」に躍起になっています。
当然こうした業者から仕入れた商品は、冒頭のニュースのような問題を引き起こす可能性が高い「リスキーな商品」です。
我々中国輸入ビジネスを行うセラーは、「安くて良いものを作る業者」と「安いだけの粗悪品を作る業者」、これら品質や安全性がピンキリな無数の業者の中からできる限り「安くて良いものを作る業者」を選んで商品を仕入れなくてはいけません。
ただ、粗悪品レベルの商品を売る業者に関しては評価である程度事前に判断できるものの、安全性に関しては業者側はもちろん、こちらでも実際に検査を行えないため詳細な確認ができません。
つまり安全性についてはほぼ「業者任せ」になっています。
業者がどれだけ商品の安全に対して注意を払っているか、その一点のみです。
そのため、仕入れの際に「とにかく1円でも安く」と、価格だけに主軸を置いて商品を仕入れてしまうと、安全を全く考えていないような問題のある業者から商品を仕入れてしまう可能性が高くなります。
赤字ぎりぎりの価格で販売しているような業者が、安全性に注意を払っているとは考えにくいでしょう。
業者が品質や安全性にある程度注意を払うためには、当然人件費などのコストがかかります。
「安全な製品はお金がかかる=原価が高くなる」という点を認識しなければなりません。
例えば、似たような商品を扱う業者が2つあり、仕入れ価格に大きな差があった場合「安い!」と何も考えずに安価な商品に飛びつくのではなく、「なぜこんなに安いんだろう?」と一旦疑ってみることが大事です。
こうした意識を持っていないと、「安価な商品の罠」にはまる可能性があります。
というのも、最近のAmazonでは、商品を中国から輸入した日本人セラーの他にも中国人セラーが直接販売しているケースも増えてきました。
こうした現地系の出品者は、非常に安く商品を販売しています。
我々がアリババやタオバオで同じ商品を仕入れて同じ価格で売ると利益が出ない、もしくは赤字になってしまうほどの安さです。
そうなると、我々日本人セラーは「もっと安い仕入れ先があるに違いない」と仕入れ値を下げることに意識が向きがちですが、その考え方は危険です。
そもそも中国系の出品者はアリババやタオバオなんて使わず、工場から直接卸してもらったり、自社工場で生産しているケースも多いです。
つまり「工場⇒アリババ⇒代行輸入業者⇒Amazon」と仲介業者を何回も通る私たち日本人セラーとはそもそも購買能力や販売力が違います。
そんな「同じ商品をより安く仕入れられる中国輸入セラー」に対抗して、「もっと安い商品」を仕入れようとすれば、同じ商品ではなく「より品質と安全性が低い、類似商品」という非常にリスクの高い商品を仕入れてしまうだけです。
価格も品質も大事だが、安全性を疎かにしてはいけない
Amazonのマーケットプレイスは日本やアメリカ、その他の国でも最大級の市場ですが、「安全不適合品」「偽造品」「模造品」「粗悪品」といった問題のある商品も数多く販売されています。
日本のAmazonでもちょっと検索をかけると、安全性に疑問を持つような、思わず首をかしげてしまうような商品がいくつも見つかります。
バッテリー製品ならPSE(電気用品安全法)、子供用品なら食品衛生法といった輸入や販売に検査や許可のいる商品なら「検査済」「適合検査済」といったマークの表示で、ある程度安全性や品質が保たれていることが確認できます。
ですがそもそも許可や申請不要の商品の場合、なんの検査もチェックも行われていない商品が多く出回っています。
そういった商品にも一応その商品カテゴリーの業界団体が自主的に行っている認定検査がありますが、安さに主軸を置いた商品がそんなお金も時間もかかるような検査を受けているとは考えにくいです。
例えば自主的に行う代表的な物が、一定の検査を受け、基準を満たしている製品に表示される「JISマーク」です。
このJISマークがある製品は、比較的厳しい検査やチェックを受けていますので、品質や安全性がある程度担保されています。
販売の際にこのJISマークが義務付けられている製品もありますが、法律的な縛りの無い製品に関してはJISマークが無くても販売可能です。
日本では昭和24年の工業標準化法制定以来70年以上の歴史があり、日本で店頭販売されている商品のほとんどにこのJISマークがついていました。
つまり日本で買える商品のほとんどは、業者による安全チェックが行われた「安全に買える商品」が当たり前となっていたのです。
ところがインターネットの普及と昨今の中国輸入ビジネスの広がりとともに、この「JISマークがついた品質と安全性が担保された商品」が当たり前ではなくなってきました。
安全性を確認していないJISマーク無しの商品が、中国や海外から容易に輸入して販売できる状況になっているのです。
このような知識を持っている筆者や詳しい方は買う際に注意できます。
ですが、消費者の多くは「JISマーク」の存在自体知らない人もいるでしょう。
それでも「日本で売られている製品は安全だ」という認識自体は多くの人が持っているはずです。
消費者は日本製や中国製だからとか、JISマークの有無ではなく、「日本で売っているものは安全」と思って買ってしまっているのです。
それはAmazonマーケットプレイスでも同様です。
通常のユーザーで「Amazonで売られている商品が中国製かどうか・JISマークがあるかどうか」なんて気にして買っている方は少数派でしょう。
・「大手のAmazonで売られているから」
・「安いから」
・「欲しいから」
こうした理由で買われた商品の中には、先ほど話したJISマーク無しもあるでしょうし、その中には安全性について全くチェックされていない粗悪品も多数混入しているでしょう。
その粗悪品の一部が、実際に大きな事故を起こしています。
我々中国輸入ビジネスを行う者は、こうした現状を理解して商品を仕入れたり販売しなくてはいけません。
安全性と品質と仕入れ値を天秤にかけて落としどころを探る
価格の安さにだけに固執せず、安全性や品質も重視する。
それが今回のコラムの要点です。
とはいえ、中国輸入ビジネスをやっているセラーは大企業ではなく、おそらくほとんどが中小企業、もしくは個人事業主レベルです。
大企業のように厳しい検査や認定を受けた商品のみを仕入れたり、自主的に規格取得のための検査や申請を行うのは不可能です。
自分で毎回厳しい品質チェックや安全性確認を行うのもかなり厳しいでしょう。
これらのチェックや検査を行ったところで売上が保証されたり、劇的に上がるわけでもないため費用対効果の面で言えば割に合いません。
もちろん仕入れた商品にこうした検査を行えば確実に信用や売上には影響を与えます。
そのため、長期的に見ればメリットも付いてきますが…その前に資金が底をついてしまうでしょう。
食品衛生法やPSEにかかわる商品は「検査・申請しないと輸入販売できない」ため、資金力のないセラーならそもそも「輸入・販売しない」と判断ができます。
ですが、それ以外の一般的な商品となると安全性が100%確認されていないものでも輸入しないわけにはいきません。
輸入して販売してこそのビジネスで「輸入を制限する=売上が制限される」です。
結局輸入販売は「仕入れ値」「品質」「安全性」、いずれかを優先すれば他が犠牲になり、必ず何らかのリスクを負う構図になっています。
そうなると我々資金力や販売力のない中小事業者はどうしても価格優先になり、JISマークがないような「品質・安全性のリスクがある商品」をある程度飲み込まざるを得ません。
もちろんそんな制約の中でも、できる限り安全性や品質には注意を払う必要がありますが、結局「大企業のような100%安全性を意識した商品を扱うのは難しい」のが実情です。
もちろんAmazonもこうしたセラーの現状は理解しています。
販売責任を負うAmazonとしては、「事故をできる限り無くすために、できればすべての商品にJIS規格的な検査をお願いしたい」のが本音でしょう。
でもそれは無理だと分かっているので、「事故が発生した際にセラーも消費者もAmazonも損失が最小限になるようにする」という方針で落としどころを探っています。
そのため、賠償責任を負うと同時にセラーに対して損害賠償保険(PL法)に加入するよう取り組みを進めているようです。
他にも安全性を高める取り組みとして、登録したブランドを保護するTransparencyという仕組みも始まっています。
これはブランドを模造品や偽物から守るサービスで、Transparencyで発行されたタグが無い商品は即座に偽物と判定される仕組みです。
Amazonではこうした取り組みを随時準備・実施しています。
安全性についても、今後Amazon内で販売するための独自規制や審査が始まる可能性は大いにあります。
例えば食品衛生法に関わる商品は、出品時にAmazonに検査結果を提出しないと販売ができないなど。
Amazonは自社のブランドを守るため、「Amazonで販売している商品は安全です」「ちゃんと安全な商品を販売できる環境を作っています」と言い切るための仕組みを作っていくはずです。
消費者が持っている商品の安全性への認識と、実際に販売されている商品の安全性にズレが生じ始めている昨今、「消費者ファースト」の姿勢を打ち出すAmazonとしてはこうした仕組みを次々と打ち出していくことは間違いないでしょう。
Amazonで商品を売っている我々セラーは、この現在のAmazonの動きや姿勢を理解し、将来にわたって円滑なビジネスができるように準備して動いていかなくてはいけません。
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